ECCO 物語

  • ロングエスからショートエスへ-ECCOで文字表記の変遷を追跡する

    「英国詩人伝」は、52人の詩人の評伝と批評をまとめたサミュエル・ジョンソン晩年の大作です。ところで、ジョンソンが『英国詩人伝』を著すに至った背景には、当時の出版社の競争といった事情がありました。

    18世紀後半、それまで出版社に多大な利益を与えていた永続的な著作権が裁判によって退けられると、著作権の保護期間を過ぎた書籍の復刊がブームとなります。その中で、ジョン・ベル(John Bell)という商才に長けたエジンバラの出版人が、廉価版の出版企画を次々に放ち、「ベルズ・エディション」と呼ばれるほど好評を博します。

    「ベルズ・エディション」として詩人全集の刊行を始めると、ロンドンの伝統的な出版者たちが、これに対抗して詩人全集を刊行することを目論み、単なる詩のアンソロジーではなく、詩人の評伝を加えて付加価値を出そうと、文壇の大御所ジョンソンに執筆を依頼したというわけです。その後、評伝だけを独立して刊行されたのが『英国詩人伝』です。

    ところで、『英国詩人伝』誕生のきっかけを与えたジョン・ベルは、廉価版の刊行以外では、アルファベット表記の歴史に名を残しています。18世紀には、小文字のエスはロングエス(long s)という小文字のエフに似た表記を取っていましたが、ベルはロングエスの使用を止め、現在使われている小文字のエス(ショートエス)の表記を採用し、新しい表記法への道を拓きました。

    ECCOに搭載されている文献を丹念に調べることによって、アルファベット表記の変遷を追跡することができます。

  • 18世紀イギリス文壇の大御所、ジョンソン博士

    18世紀のイギリスが生んだ人物の中で一人挙げるとすれば、サミュエル・ジョンソン(ジョンソン博士)を挙げる人は多いでしょう。16世紀のシェイクスピア、17世紀のミルトン、19世紀のディケンズと並ぶイギリス文学史上の大物文人です。

    ジョンソンの功績としては、何と言っても『英語辞典』の編纂が筆頭に挙げられますが、その他にも、『シェイクスピア全集』の校訂や『英国詩人伝』の不朽の価値はジョンソンの名声を歴史に残すのに大いに寄与しました。また、談論の名手であったジョンソンは、文学クラブを主宰し、そこに集う当代一流の知識人と交わりました。まさに18世紀イギリス文壇の大御所というべき存在です。その生涯は、弟子のボズウェルの『ジョンソン伝』によって後世に伝えられています。

    ECCOを著者”Samuel Johnson”で検索すると、非常に多くの件数がヒットします。ジョンソンのような重要な人物については、ECCOでは同じ著作でも異版が搭載されています。『英語辞典』、『英国詩人伝』だけでなく、知名度の劣る著作まで、その作家活動の全貌を知ることができます。ジョンソンが編集に関わった定期刊行物として有名な『ランブラー(The Rambler)』は、休刊後に雑誌を合本にして書籍として刊行されましたが、これも搭載されています。ECCOでは『ランブラー』も閲覧できるのです。死後出版された『ジョンソン博士のテーブルトーク(Dr. Johnson’s table talk)』のようなジョンソンの言葉を主題別に集めた著作もあり、座談の名人ジョンソンというイメージが当時から広がっていたことを伺わせます。

    ECCOを覗くと、ジョンソン博士の作家活動の知られざる側面が浮かび上がってくるかも知れません。

  • 目録作成から始まったECCO

    18世紀コレクションオンライン(ECCO)がリリースされたのは2003年ですが、その起源をたどると18世紀の刊行物を目録するプロジェクトまでさかのぼります。18世紀に刊行された書籍、パンフレット、短命出版物の目録を作成するプロジェクトが、米国18世紀学会と英国図書館の協賛の下にスタートしたのです。1976年のことです。Eighteenth Century Short Title Catalogue(ESTC)と呼ばれた目録は、18世紀イギリスにおける英語と英語以外の刊行物に加え、イギリス以外の英語刊行物を収録対象とすることが目的として掲げられました。イギリス以外の地域とは、北米(アメリカ、カナダ)、カリブ海地域、インド、南アフリカ、ロシア、ヨーロッパです。

    その後、目録に収録された刊行物のコレクションのマイクロフィルム版が1982年にリリースされます。マイクロフィルム化に際しては、主として英国図書館に所蔵された原本が使われました。このマイクロフィルム版をデジタル化したものがECCOです。

    言うまでもありませんが、図書館の所蔵図書でも、特定の年代の刊行物でも、目録作成がすべての出発点です。現在、ECCOという形で18世紀の刊行物にいつでも、どこでもアクセスできるのは、書誌学者やライブラリアンが目録を作成してくれたからに他なりません。ESTCは現在、英国図書館のサイトで、無料で閲覧することができます。

  • 18世紀には革新的な辞典・事典が現れた

    18世紀には多くの辞典/事典が刊行されましたが、その中でも後世に大きな影響を与えた三つの辞典/事典を忘れることはできません。ジョンソンの英語辞典(1755)、ディドロ・ダランベールの百科全書(1751-1775)、ブリタニカ百科事典(1768-1771)です。あたかも、中世以来育まれてきた西洋の辞典/事典作りの知が全面的に開花したかのように、18世紀半ばに革新的な辞典/事典の編纂が実現したのです。

    ジョンソンの英語辞典は、先行するフランス語辞典が古い言い方や粗野な言葉ではなく、正しく洗練された言葉を掲載しようとしたのに対して、あるがままの言葉を載せるという方針を打ち立て、言葉の意味を説明するために用例を載せ、異なる意味に番号を付けるという、今日普通に用いられているモデルを初めて採用した近代辞典の父と言うべき存在です。

    ディドロ・ダランベールの百科全書は、今では百科事典の代名詞と言ってもよいでしょう。イギリスのチェインバースの百科事典(1728)をフランス語に翻訳するというささやかな構想からスタートしたプロジェクトは、テキスト17巻、図版11巻を25年に亘って刊行するという空前の出版事業に拡大しました。250人に及ぶ多士済々の寄稿者の人間模様、検閲当局による介入の中での出版といった事情は、まさに思想史のドラマと言って良く、後世の多くの人々を魅了してきました。

    多くの寄稿者による図版を多用した多巻の事典という百科全書のフォーマットは多くの追随者を生みましたが、最も早い時期の追随者がブリタニカ百科事典です。イギリスにおける啓蒙思想の母体となったスコットランドで、100週間に亘る分冊という形式で刊行されました。百科全書が18世紀以後は改版されなくなったのに対して、追随者のブリタニカ百科事典は19世紀、20世紀と幾度も改版され、現在はオンライン版で利用することができます。

    ECCOには、ジョンソンの英語辞典の初版と第二版、ブリタニカ百科事典の1790年から1798年までダブリンで刊行された20巻ものが搭載されています。